企業と社長の「賞味期限」

 昨年、食品の「賞味期限」が社会問題化し、あちらでもこちらでも「お前もか!」の状態が続いた。食品衛生法には、「消費期限」「賞味期限」の2種類がある。消費期限は品質の劣化の限度であり、賞味期限はおいしく食べられる期限である。消費期限の貼り直しは論外だが、賞味期限は案外騒ぐほど私たちは意識していないのでは無いだろうか。
 世代間にも大きく違いがあるようである。我が家でも、私や家内は戦後の食糧難の時代に育っているせいかあまり気にならず、自分の舌で賞味期限を判断しているが、子供たちはシールの確認が先であり、娘が里帰りすると、我が家の冷蔵庫はほとんど空になるくらい捨てられ、いつも母親のストレスを増大させるところとなっている。
 ところで、この機会に企業や社長の賞味期限を考えてみることにした。先ず「企業の寿命は30年」という分析結果があるが、寿命は消費期限切れであり、そこに至る賞味の維持継続ができなかったということに他ならない。
 それでは、長寿企業になれる条件とは何かを考えてみよう。シェル石油が以前発表した、長寿企業の共通要因の研究によると、以下の4点がある。
  ① 環境の変化に敏感である
  ② 事業の独自性と社員の結束力がある
  ③ 分散的に経営される自由度がある
  ④ 財務的には保守的である
 要約すると、環境変化による改革を明確にし、それをスピーディに実行に移せる柔軟な組織力を持つことである。わかり易い事例をご紹介しよう。
 かつては幾多のメジャートーナメントで栄光の時代を築きながら、その後どん底の6年間を過ごし、数年前、「奇跡の復活」と呼ばれたゴルフの中嶋プロのケースである。しかし、中嶋プロは「復活という言葉は違う、復活は人間にはできない。老化してゆく身体や脳に合わせて、全く新しい中嶋に生まれ変わったんだ。むしろ新生中嶋と呼んでほしい」と、過去の成功体験の否定と自己改造こそが勝利の要因と語った。スランプに陥った当初は、好調であった過去を思い出そうと苦しんだが、自分を見つめ、常に年齢に応じたスイングやゴルフに生まれ変わり続けることこそが課題と気づいてからは、ゴルフが楽しくなったという。
 企業にしろ社長にしろ、大きな変化の潮流の中に生きており、常に過去の成功体験を否定し、生まれ変わり続けることこそが未来を創造する条件であることを示唆している。